島崎藤村
底本:「日本の名随筆19 秋」作品社
1984(昭和59)年5月25日第1刷発行
底本の親本:「藤村全集 第一三巻」筑摩書房
1967(昭和42)年9月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
島崎藤村
わたしがこれを書いているのは九月の十二日だ。新涼の秋気はすでに二階の部屋にも満ちて来た。この一夏の間、わたしは例年の三分の一に当るほども自分の仕事をなし得ず、せめて煩わなかっただけでもありがたいと思えと人に言われて、僅かに慰めるほどの日を送って来たが、花はその間に二日休んだだけで、垣のどこかに眸(ひとみ)を見開かないという朝とてもなかった。