島崎藤村
底本:「日本の名随筆19 秋」作品社
1984(昭和59)年5月25日第1刷発行
底本の親本:「藤村全集 第一三巻」筑摩書房
1967(昭和42)年9月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
島崎藤村
この旱天を凌いで、とにもかくにも生きつづけて来た一二の秋草の姿がわたしの眼にある。多くの山家育ちの人達と同じように、わたしも草木なしにはいられない方だから、これまでいろいろなものを植えるには植えて見たが、日当りはわるく、風通しもよくなく、おまけに谷の底のようなこの町中では、どの草も思うように生長しない。そういう中で、わたしの好きな薫(かおりぐさ)だけは残った。わたしの家の庭で見せたいものは、と言ったところで、ほんとに猫の額ほどしかないような狭いところに僅かの草木があるに過ぎないが、でもこの支那の蘭の花のさかりだけは見せたい。